1.脳機能に深く関わるエストロゲン
酸素不足や薬物による脳の神経細胞の傷害は、エストロゲンが存在すると
軽減されることから、エストロゲンには神経保護作用があり、さらに
エストロゲンは、障害された神経細胞の新生にもかかわっていると
いわれています。人工的にマウスに脳卒中を起こし、その後の機能回復と
エストロゲンとの関係をみた実験があります。その結果によると、エストロゲンが
作用していると、脳卒中後の回復が良好でありました。
月経周期に伴うエストロゲン分泌の変動、薬剤によるエストロゲン分泌の抑制、
閉経期などに伴い、脳内の各部位の血流量が変化することが、MRIやPETなどの
画像診断装置による観察で確認されています。
エストロゲンに反応する脳の部位は、意欲、意思、ストレスへの対応、記憶、感情
などに関係する機能を司っています。エストロゲンはさらに、認知機能、
痛みの知覚、体温調整、睡眠などさまざまな脳の機能と関連しています。
2.脳内でも産生されるエストロゲン
エストロゲンは生殖機能を総括しているホルモンでありますが、生殖機能に関わる
エストロゲンは主に卵巣で作られます。卵巣由来のエストロゲンは、全身の血管に入り、
乳腺や子宮などの生殖臓器に作用します。また、脳の性中枢(視床下部や下垂体)にも
到着し、視床下部-下垂体-卵巣といった機能環を形成して卵巣機能を調整しています。
卵巣由来のエストロゲンは、主に生体の植物性機能(生殖、内分泌系、循環器系、消化器系)
などのように個体や種の維持に必要な基本的な生理機能を調整しています。
しかしヒトをはじめとする動物では、植物にない感情、本能、行動、意欲といった
脳神経系が統御する動物性機能があります。これらには、脳内で産生されている
エストロゲンが重要な役割を果たしています。しかも、脳内のエストロゲンの産生、
分解の調整は、卵巣由来のエストロゲンとは独立して行われています。
3.性格に影響をもたらすエストロゲン!?
エストロゲンは、女性らしさ、男性ホルモンは男性らしさに関係するのではないかと
よく言われてきました。しかし女性らしさ、男性らしさといっても曖昧な概念です。
一般には、女性らしさとはしとやかさ、控えめなどを連想し、男性らしさとは
攻撃性、闘争性、競合性などとみなされています。しかし、いかなる状況化で
誰に対して控えめ、あるいは攻撃的になるかは男女それぞれの生物学的役割が
異なるため、男性と女性とでどちらが控えめか、あるいは攻撃性があるかを
比較するのはあまり意味のないことかもしれません。
そのようなことを念頭に置いて、性ステロイドホルモンが性格にどのように
関連しているかを述べていきます。
エストロゲンが、正確に影響するという端的な例として、生物学的には完全に
男性であるが、自らは女性として振る舞うことを強く希望し、異性として女性には
全く興味を示さない“男性”がいます。このような人では精神的に不安定となり、
イライラ状態がよくみられます。エストロゲンを投与するとイライラがおさまり、
社会的には女性として安定した精神状態となります。
逆に生物的には女性でありながら、自身は男性でありたいと願う人がいます。
こうしたひとでは当然エストロゲン優位なホルモン環境にありますが、
テストステロンを投与するとエストロゲン分泌は制御され、
男性ホルモン優位な環境となります。
それに伴い攻撃的で怒りやすい性格への変化がみられることもあります。
正常な卵巣機能を有する女性では、エストロゲン濃度は月経周期のどの時期かに
よって著しい変動をみます。そこで、月経開始日と排卵日の中間の時点で
性ホルモンを測定し、それらと攻撃性との関係を調べた研究があります。
すると、エストロゲン値が高めの女性は、運動競技などのように他との
競争を強いられる状況下では競争心があまり旺盛ではないという報告でした。
しかしながら、正常な卵巣機能を有する女性においてはエストロゲン濃度の
個人差乏しく、エストロゲンの濃度と性格との関連を見出すのは容易ではありません。


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