異病同治と苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)
苓姜朮甘湯は**「脾腎陽虚による水湿の停滞」**に対して用いる方剤です。以下のような疾患に適応されます。
目次
1. 苓姜朮甘湯を用いる疾病(適応症)
(1) 消化器系疾患
- 慢性胃腸炎(脾陽虚による消化不良・冷えによる下痢)
- 過敏性腸症候群(IBS)(冷えによる腹痛・軟便・水様便)
- 胃下垂・胃腸虚弱(脾陽不足による消化機能低下)
(2) 泌尿器系疾患
- 慢性膀胱炎・頻尿(腎陽虚による膀胱の冷え)
- 夜間頻尿・尿失禁(腎陽不足による膀胱機能低下)
- 慢性腎炎・ネフローゼ症候群(腎陽虚による水湿停滞)
(3) 婦人科系疾患
- 月経不順・生理痛(冷え性タイプ)(血流低下による月経困難)
- 更年期障害の冷え症状(腎陽虚による代謝低下)
(4) 呼吸器系疾患
- 慢性気管支炎・喘息(冷え性タイプ)(水湿停滞による痰の過剰)
- アレルギー性鼻炎(冷えによる水様性鼻水)
(5) 筋骨格系疾患
- 冷えによる関節痛・腰痛(水湿が関節に停滞し、疼痛を引き起こす)
- 筋肉のこわばり・むくみ(水湿の代謝不良)
2. 苓姜朮甘湯を用いる根拠
(1) 苓姜朮甘湯の基本作用
- 脾腎陽を温める(脾腎の機能を高める)
- 水湿を除去する(体内の余分な水分を排出)
- 消化機能を回復させる(脾胃の陽気を補い、食欲を促進)
- 冷えを改善する(陽気を補い、体温調節機能を高める)
このため、「脾腎陽虚による水湿の停滞」が関与する様々な疾患に対して、異病同治の考えのもと同じ処方(苓姜朮甘湯)が適応される。
3. 方剤の方意(苓姜朮甘湯の処方意図)
苓姜朮甘湯は**「温補脾腎・去湿」**を目的とした方剤であり、主に以下の作用を持つ。
方剤 | 作用 |
苓姜朮甘湯 | 温陽化水(陽気を温め、水湿を排除) |
脾腎の陽を補い、水湿を除去することで、冷えによる慢性的な水滞を改善する。
4. 各生薬の配合目的
生薬 | 作用 | 目的 |
茯苓(ぶくりょう) | 健脾利水(脾の働きを助け、水分代謝を促す) | 体内の余分な水分を排出し、むくみを改善 |
乾姜(かんきょう) | 温中散寒(胃腸を温め、冷えを改善) | 胃腸の陽気を補い、冷えによる消化不良を改善 |
白朮(びゃくじゅつ) | 健脾補気・利水(脾を補い、余分な水分を排出) | 消化機能を高め、むくみを改善 |
甘草(かんぞう) | 補気調和(他の生薬の作用を調整) | 脾胃の働きを安定させ、薬効を調和する |
5. まとめ
(1) 苓姜朮甘湯を用いる異なる疾病
- 消化器、泌尿器、婦人科、呼吸器、筋骨格系など幅広く適応
- 共通する病態は 「脾腎陽虚による水湿の停滞」
(2) 異病同治の考え
- 「異なる疾病でも、根本の病因(脾腎陽虚・水湿停滞)が同じならば、同じ方剤で治療できる」
- 苓姜朮甘湯は 「温陽化水」 の作用で、多くの疾患に対応
(3) 各生薬の役割
- 茯苓+白朮(利水・健脾)で水湿を除去
- 乾姜(温中散寒)で冷えを改善
- 甘草(補気調和)で全体を調整
苓姜朮甘湯は 冷えと水湿の停滞による慢性疾患に対して、異病同治の視点で応用可能な代表的な方剤 といえる。
ご相談お待ちしています。
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