中医学の問診は、
「どんな病気か」を探すのではなく
「なぜその症状が起きているのか」
を探る旅のようなものです。
体の中の陰陽・気血・臓腑のバランスが
どこで崩れているのかを見つけるために、丁寧にお話を伺います。
西洋医学と異なり
「病名を特定する」ことではなく
身体全体のバランスのどこに偏り(失調)があるかを見極め
証(しょう)を立てることにあります。
証とは体の中の状態が体の外に症状として現れた状態
| 証 | 例えると | 体の症状 |
| 陰虚証 | 乾燥した土地 | 潤いが足りず、熱がこもりやすい状態 |
| 気滞証 | 詰まった交通 | 気の流れが滞って、イライラや張り感が出る |
| 痰湿証 | 湿った倉庫 | 余分な水分が溜まり、重だるさやむくみが出る |
| 血瘀証 | 渋滞した川 | 血の流れが悪く、刺すような痛みやシミが出る |
| 陽虚症 | 冷えたエンジン | 熱を作る力が弱く、冷えや疲れが出やすい |
陰虚証は
今の体は“乾燥した土地”みたいで
潤いが足りないから熱がこもってるんです。と判断できます。
つまり
「なぜその症状が起きているのか」という根本の偏りを探る会話です。
中医的な問診の目的
中医の問診とは、
体内の陰陽・気血・臓腑・経絡のどの部分に失調があり
その結果として今の症状が出ているのかを明らかにするための
観察・推論の過程です。
目的の中心
① 体の失調のパターン(証)を明らかにすること
- 同じ症状でも原因は異なる(例:不眠=心火・肝鬱・陰虚など)
② 失調の部位を特定すること
- 五臓六腑・気血津液・経絡のどこに偏りがあるか
③ 失調の性質を特定すること
- 陽虚・陰虚・気滞・血瘀・痰湿・湿熱・寒など
④ 原因(内因・外因・不内外因)を推定すること
- 七情(精神的要因)・六淫(外邪)・飲食・過労・性生活など
問診の全体像(四診合参)
中医の診察は「四診合参」に基づきます。
| 診察法 | 内容 | 目的 |
| 望診 | 顔色・舌・姿勢・皮膚など | 外から内の偏りを観察 |
| 聞診 | 声・呼吸・体臭・口臭など | 気の状態・熱寒を判断 |
| 問診 | 自覚症状を詳しく聞く | 陰陽・虚実・寒熱・臓腑の偏りを分析 |
| 切診 | 脈・腹・触診など | 気血の流れ・臓腑の機能を確認 |
中でも「問診」は
お客様自身が感じている内側の情報を得る手段であり
望診・切診では分からない“内側の偏り”を見抜く鍵になります。
問診で探る「体の偏り」の方向性
問診では、以下のような観点から“偏りのパターン”を整理します:
| 分類 | 意味 | 主な確認ポイント |
| 陰陽 | 陽=機能・熱、陰=物質・冷・潤 | 冷え・熱感・汗・舌質 |
| 寒熱 | 病邪の性質 | 寒がり/暑がり・口渇・尿・便 |
| 虚実 | 体力や抵抗力の有無 | 疲れやすさ・脈・舌の厚薄 |
| 気血津液 | エネルギー・血液・体液の充実 | 顔色・めまい・皮膚乾燥・浮腫 |
| 臓腑 | 五臓六腑の機能偏り | 睡眠・消化・排便・感情 |
| 経絡 | 痛み・しびれの部位と性質 | 痛みの部位・移動性・冷熱感 |
例:陰虚を疑うときの問診の流れ
目的:体液・陰液の不足による「熱の上昇」「潤いの欠乏」があるかを確認
| 確認項目 | 理由(観察ポイント) |
| 寝汗の有無 | 陰虚により体液が低下し夜間に熱が外へ漏れる |
| 五心煩熱(手足心・胸中のほてり) | 陰が不足して相対的に虚熱が生じる |
| 口渇・咽乾・盗汗 | 津液不足を反映 |
| 舌質紅・少苔 | 陰虚の典型(苔が少なく、舌が赤い) |
| 脈細数 | 陰不足により脈が細く速い |
このように
問診とは「一つの仮説(例:陰虚)」を立て
それを症状・舌・脈で照合して証を確定していく会話です。
中医問診の本質
| 一般医学 | 中医学 |
| 病名を特定する | 体の偏り(証)を特定する |
| 局所の異常を探す | 全身のバランスの乱れを探す |
| 客観検査中心 | 主観症状・体感中心 |
| 治療は「病気に対して」 | 治療は「人に対して」 |
問診はお客様の感じていることを丁寧に聴きながら
体の中のバランスを探る大切な時間です。
一人ひとりの“証”を見つけることで
その人に合った優しい治療が始まります。
病名を特定する西洋医学と異なり
中医学の問診は身体の滞りを探る会話です。


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