NK細胞(Natural Killer cell)と子宮NK細胞(uterine NK cell)は名前こそ似ていますが、
由来・局在・機能・サイトカイン分泌パターンが大きく異なります。
子宮NK細胞の活性が高いと着床障害・流産リスクが高まります。
① NK細胞(一般的なNK細胞)
■ 局在と由来
- 主に末梢血・脾臓・肝臓などに存在する自然免疫系のリンパ球。
- 造血幹細胞 → リンパ系前駆細胞 → NK前駆細胞 → NK細胞へ分化。
- CD56^dim / CD16^high 型が多く、強い細胞傷害活性を持つ。
■ 主な機能
- ウイルス感染細胞・腫瘍細胞の直接破壊
- IFN-γ分泌によるTh1系免疫の誘導
■ 分泌するサイトカイン
- IFN-γ(インターフェロンγ)
- TNF-α どちらも炎症・免疫活性化系サイトカイン。
■ 特徴まとめ
| 特徴 | 内容 |
| 主な局在 | 血液・脾臓 |
| 表面マーカー | CD56^dim, CD16^high |
| 主な機能 | 殺傷活性・抗ウイルス・抗腫瘍 |
| 主なサイトカイン | IFN-γ, TNF-α |
| 免疫傾向 | Th1優位 |
② 子宮NK細胞(uNK細胞)
■ 局在と由来
- 子宮内膜・特に着床期や妊娠初期の脱落膜に豊富。
- 末梢NKと同じ造血幹細胞由来だが、子宮局所で分化・成熟する。
- CD56^bright / CD16^negative 型が主で、殺傷力は弱い。
■ 主な機能
- 胎盤形成・血管新生の促進
- 子宮らせん動脈のリモデリング(血流増大)。
- 胎児への栄養・酸素供給を確保。
子宮らせん動脈のリモデリングとは血管の作り直しの事
胎児の為に、子宮の血管が作り直されて、より多くの血液が流れるようにする事
- 胎児(半同種抗原)に対する免疫寛容
- Th1反応を抑制し、Th2/Treg系優位を誘導。
- サイトカイン分泌による環境調整
- IFN-γも分泌するが、炎症よりも血管形成・免疫調和に作用。
- IL-8, VEGF, TGF-βなどを産生。
■ 分泌する主要サイトカイン
| サイトカイン | 主な作用 |
| IFN-γ(低濃度) | 血管改築促進・平滑筋脱落誘導 |
| VEGF | 血管新生促進 |
| TGF-β | 免疫寛容誘導 |
| IL-8 | 血管新生・細胞遊走促進 |
■ 特徴まとめ
| 特徴 | 内容 |
| 主な局在 | 子宮内膜・脱落膜 |
| 表面マーカー | CD56^bright, CD16^- |
| 主な機能 | 着床・血管新生・免疫寛容 |
| 主なサイトカイン | VEGF, TGF-β, IL-8, 低濃度IFN-γ |
| 免疫傾向 | Th2/Treg優位 |
③ 両者の違い
| 項目 | NK細胞 | 子宮NK細胞 |
| 局在 | 血液・脾臓・肝臓 | 子宮内膜・脱落膜 |
| 表面マーカー | CD56^dim / CD16^high | CD56^bright / CD16^- |
| 殺傷活性 | 強い | 弱い |
| 主な役割 | 感染・腫瘍防御 | 着床・胎盤形成・免疫寛容 |
| 主なサイトカイン | IFN-γ, TNF-α | VEGF, TGF-β, IL-8 |
| 免疫傾向 | Th1促進 | Th2/Treg誘導 |
④ 中医学的視点からの理解
末梢NK細胞
- 「正気」すなわち衛気・腎気・脾気の力で外邪を排除する。
病理的には「熱」「実」に対応しやすい。
子宮NK細胞
- 「腎精」から派生し、胞宮・衝任脈の気血を和調する働き。
適度な活性は「着床の土台(腎精充足・衝任和)」を支えるが、
活性過剰(IFN-γ過多)は「胞宮の不安」「胎動不安=不育」に結びつく。
したがって、「腎陰虚・陰虚火旺」では着床障害・流産リスクが高まり、
「腎気虚・衝任虚弱」ではuNKの成熟が不全となる。
NK細胞は血液中に存在し、癌細胞やウイルス感染細胞を攻撃・排除・生体を守る細胞傷害性リンパ球。
妊娠が成立すると血液中のNK細胞は子宮内に移動(migration):子宮NK細胞となり、
胎児を異物として排除するのではなく、胎児を受け容れるように働いて妊娠維持に関与します。
不育症:キラー活性の強い子宮内膜NK細胞が存在・胎児を排除する方向に働き
不育症の場合は子宮内膜NK細胞の密度が高くなることが多い
| 観点 | NK細胞 | 子宮NK細胞 |
| 西洋的役割 | 細胞傷害・防御 | 着床・血管改築・免疫寛容 |
| 中医学的対応 | 正気・衛気の発動 | 腎精・衝任の調和 |
| 活性異常の結果 | 炎症・自己免疫 | 不妊・流産・着床障害 |
子宮NK細胞の活性亢進による不妊・不育症は、現代免疫学では着床期の免疫寛容破綻として理解されますが、
これを中医学的に翻訳すると、「胞宮(子宮)の陰陽・気血・衝任の不和」と考えます。
☑眞健堂薬局の臨床での弁証・方意をお伝え
① 現代医学的背景
着床期における子宮NK細胞(uNK)は、本来、
- 血管新生(VEGF分泌)
- 着床促進(TGFβ・IL-8分泌)
- 免疫寛容(Treg誘導)
を担う温和な存在ですが、
過剰に活性化するとIFN-γ・TNF-αを過剰分泌し、
「胎児を異物とみなして攻撃」→「着床障害・早期流産」につながります。
中医学ではこれを、
「胞宮の気血が和せず、腎虚・陰虚・血熱・瘀血による衝任失調」と解釈します。
② 弁証論治の基本構造
| 弁証型 | 主病機 | 主要症状 | 方針 |
| 腎陰虚型 | 腎精不足 →胎元滋養できず | 月経量少・基礎体温高温期短い 口渇・不眠・心煩 | 補腎養陰 安胎 |
| 腎陽虚型 | 命門火衰 →胞宮温養不足 | 下腹冷・腰膝冷痛・月経遅延 白帯多・疲労 | 温腎助陽 固精養胎 |
| 気血両虚型 | 血少・気弱 →胎元不固 | 月経量少・色淡・息切れ めまい・流産既往 | 補気養血 健脾安胎 |
| 血熱妄行型 | 虚熱・実熱 →血行妄動 | 月経早・量多・舌紅 脈数・イライラ | 清熱涼血 養陰安胎 |
| 瘀血阻滞型 | 血行不暢 →着床障害 | 月経痛・黒血塊 基礎体温二相不明瞭 | 活血化瘀 調経安胎 |
| 肝鬱気滞型 | 気滞 →血行不暢・子宮血流低下 | 月経不順・乳房脹痛・情志不安 | 疏肝解鬱 調経安胎 |
③ 子宮NK活性亢進に最も多い病機
実際の臨床では、以下の2パターンが多くみられます。
(1)腎陰虚・血熱型(免疫過剰型)
- 病理要点: 陰虚によって内熱が生じ、IFN-γやTNF-αが過剰分泌され、着床環境が攻撃的になる。
- 典型症状: 舌紅・脈細数、顔赤・口渇・手足のほてり・基礎体温高温期短縮。
- 治法: 養陰清熱・安胎。
方意
- 腎陰を補い、内熱を鎮めて「胎を養う静かな環境」を回復。
- → 中医学的には「陰血が和すれば胞宮安じ、NK活性が自然に沈む」。
(2)腎陽虚・瘀血型(局所循環低下型)
- 病理要点: 腎陽不足により胞宮寒し、局所血流低下→uNKが異常反応(炎症・拒絶)を示す。
- 典型症状: 冷え・月経遅延・黒血塊・腰膝冷痛・流産既往。
- 治法: 温腎養血・化瘀安胎。
方意
- 腎陽を温め、血脈を滑らかにして、胞宮に温養の気血を満たす。
- → 「胞宮温かにして気血流暢なれば、NK細胞も和する」。
④ 現代医学的対応との対応図
| 免疫学的現象 | 中医学的病機 | 治法 | 方剤例 |
| IFN-γ/TNF-α高値 | 陰虚火旺・血熱 | 養陰清熱 安胎 | 知柏地黄丸・二至丸 |
| uNK数過多・血流低下 | 腎陽虚・瘀血 | 温腎活血 調経安胎 | 温経湯・当帰芍薬散 |
| Treg低下 | 腎精不足・衝任虚 | 補腎填精 養血安胎 | 八珍湯・寿胎丸 |
| 免疫過敏・流産歴 | 気血両虚・胎元不固 | 補気養血 固胎 | 人参養栄湯・十全大補湯 |
⑤ 治療の中核概念:「腎・衝任・胞宮」の三位一体
中医学では、着床と妊娠維持は以下の三要素の調和で成り立ちます。
- 腎 :精を蔵し、生殖の根本。→ NK細胞の基盤的制御力。
- 衝任脈:胞宮への血流路。→ 着床環境(血流・ホルモン)の調和。
- 胞宮 :胎を育む場。→ 免疫寛容(uNKとTregのバランス)。
つまり、補腎以外に妊娠なしという中医の原則は、
現代的に言えば「免疫・ホルモン・血流の統合制御」にあたります。
⑥ 臨床応用
妊娠準備期
- 陰陽の偏りを是正(陰虚→滋陰清熱、陽虚→温腎補陽)
+活血(疏通胞宮・改善子宮血流)。
着床期(排卵後)
- 活血薬を減らし、安胎薬(杜仲・続断・桑寄生・阿膠)へ転換。
→「動より静へ」、免疫の鎮静化を図る。
妊娠初期
- 安胎を主とし、補気血で胎元を固める。
★概念
| 概念 | 内容 |
| 子宮NK活性上昇の本態 | 胞宮の陰陽失調・気血不和・衝任失調 |
| 中医的治法原則 | 「補腎養血・安衝任・和胎元」 |
| 核となる弁証 | 腎陰虚・腎陽虚・瘀血・血熱・気血両虚 |
🔑臨床のカギは妊娠準備期は「通」、着床期は「静」


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