病気は突然現れるものではなく、
身体の中で静かに進行する“連続した過程”があります。
中医学では、炎症から始まり、血管の反応、微小循環の障害
そして瘀血の形成を経て、
最終的には組織の修復や線維化へと至る流れを重視します。
今回はこの一連の流れを、各段階の代表的疾患とともに見ていきながら
瘀血という鍵となる段階に焦点を当ててみます。
一滴の炎症がやがて川の流れを変え、土壌を硬くし、草木の育ち方まで変えてしまう
身体の中でも同じように、
炎症から始まる一連の変化が、血管や微小循環を経て
瘀血を生み
最終的には組織の性質そのものを変えてしまいます。
では、この流れの中で瘀血が果たす役割とは何でしょうか?
「炎症→血管→微小循環→瘀血→組織修復・線維化」という連続過程における
各段階の代表的疾患について段階ごとに「病態機序」と「具体的疾患例」をお伝えいたします。
① TNFα・IL-1β・IL-6による慢性炎症・血管透過性亢進
病態機序
TNFα・IL-1β・IL-6がマクロファージから持続的に分泌
主な症状
好中球・単球の浸潤、血管内皮の透過性上昇、浮腫・滲出液形成
代体表的疾患
関節リウマチ(RA) – 炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)
糖尿病性慢性炎症(肥満脂肪組織) – 動脈硬化(慢性血管炎症)
☑慢性副鼻腔炎やアトピー性皮膚炎など慢性炎症性疾患
☑慢性炎症では血管透過性が上がり炎症細胞やフィブリンが組織内に漏出 →
組織硬化・線維化へ移行。
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② フィブリノーゲン上昇による血液粘度上昇・凝固系亢進
病態機序
IL-6などにより肝で急性期蛋白(フィブリノーゲン)が増産
主な症状
血液粘度上昇・赤血球連銭形成・血小板凝集
代表的疾患
動脈硬化症 – 脳梗塞・心筋梗塞(血栓性疾患) – 糖尿病(慢性炎症と高粘度血症)
慢性関節リウマチ(炎症性凝固活性化)
☑フィブリノーゲンは炎症マーカーでもあり
同時に血流を滞らせ瘀血化を促進します。
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③ 一酸化窒素(NO)不足による微小循環低下
病態機序
内皮型NO合成酵素(eNOS)活性低下または酸化ストレスによるNO分解
主な症状
血管拡張障害・血管抵抗上昇・組織虚血
代表的疾患
高血圧 – 糖尿病性血管障害(NO合成低下) – 動脈硬化症
勃起不全(ED) – 脳血管性認知症(微小循環低下)
レイノー病(末梢血流低下)
☑NOは中医で言う「陽気の通達・血脈の開き」に対応します。
☑NO不足は「陽虚瘀血」の現代的表現と近似。
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④ 活性酸素種(ROS)による酸化ストレス:内皮障害・赤血球変形能低下
病態機序
ROS(スーパーオキシド・過酸化水素など)が膜脂質・蛋白を酸化
主な症状
内皮細胞損傷、血管透過性異常、赤血球硬化→微小循環不全
代表的疾患
糖尿病性血管障害 – 動脈硬化症 – 慢性腎臓病
高血圧性血管障害 – SLEなど自己免疫疾患
☑赤血球変形能低下=毛細血管通過障害=瘀血化。
酸化ストレスは「血熱・血瘀」を同時に悪化させます。
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⑤ ICAM-1・VCAM-1などの接着分子増加(内皮炎症の指標)
病態機序
炎症性サイトカイン(TNFα・IL-1β)刺激で内皮にICAM・VCAM発現
主な症状
白血球が内皮に接着・遊走→血管壁炎症→アテローム形成
代表的疾患
動脈硬化症(初期段階) – 慢性関節リウマチの滑膜炎
糖尿病性血管炎 – SLE・血管炎症候群
自己免疫疾患:ANCA関連血管炎
☑接着分子の発現は「内皮の炎症状態」を意味し、
微小血管レベルでの「瘀血形成の前駆段階」です。
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⑥ 毛細血管の透過性亢進(滲出・浮腫・血管漏出)
病態機序
ヒスタミン・ブラジキニン・サイトカインなどで内皮細胞間隙が開大
主な症状
漿液・蛋白の滲出→浮腫・発赤・熱感
代表的疾患
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎 – ネフローゼ症候群(毛細血管透過性亢進)
敗血症性ショック – 肺水腫 – 血管性浮腫
☑毛細血管透過性上昇は「実証的炎症」
☑これが長期化すると線維化へ。
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⑦ 組織間質の線維化
病態機序
慢性炎症によりマクロファージ・線維芽細胞活性化 → TGF-β分泌 ↑
主な症状
コラーゲン沈着・組織硬化・機能低下
代表的疾患
肝線維症(肝硬変) – 肺線維症(特発性・膠原病性)
腎線維化(慢性腎不全) – 心筋線維化(心不全・心筋症)
糖尿病性線維化(全身臓器硬化) – 皮膚硬化症(強皮症)
☑TGF-β・PDGF・FGFによる線維芽細胞活性化は
「炎症の収束が遅れた結果の器質化」です。
☑中医的には「久病入絡」「瘀久化熱」「瘀阻絡脈」に相当。
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★病態の流れ
| 段階 | 主なサイトカイン・分子 | 代表疾患 |
| ① 炎症開始 | TNFα・IL-1β・IL-6上昇 | 関節リウマチ・IBD |
| ② 凝固・粘度上昇 | フィブリノーゲン | 動脈硬化・脳梗塞 |
| ③ 血管拡張障害 | NO不足 | 高血圧・ED |
| ④ 酸化ストレス | ROS | 糖尿病・腎障害 |
| ⑤ 内皮炎症 | ICAM・VCAM | 動脈硬化・血管炎 |
| ⑥ 透過性亢進 | ヒスタミン・サイトカイン | アレルギー・肺水腫 |
| ⑦ 線維化 | TGF-β | 肝硬変・肺線維症 |
このように
炎症から線維化に至るまでの過程には
瘀血が重要な転換点として存在しています。
瘀血が改善されれば微小循環が整い
組織の修復も過剰な線維化ではなく
より自然な再生へと向かう可能性があります。
中医学の活血化瘀の考え方は
単なる血流改善ではなく病態の進行を食い止め、
回復の質を高めるための戦略なのです。
瘀血は、過去の炎症の痕跡であり
未来の線維化の予兆でもあります。
だからこそ、今この瞬間に瘀血を見つめ
整えることが病の流れを変える鍵となるのです。
中医学の知恵は、流れの中に因果を見出し
その流れを整えることで、身体の未来を変えていくのです。


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