1.骨の成長を促すのも止めるのもエストロゲン
代表的なエストロゲンであるエストラジオールは、思春期前の男女ですでに差があります。
すなわち、いずれも微量ではありますが女児のほうが男児より7から8倍も高値です。
思春期に至ると男女ともエストラジオールは漸増しますが、それでもまだ女児のほうが
高く維持されています。
思春期は男女とも身長が急に伸びる時期でもあります。(スパート)
身長が伸びるということは骨が成長することでもあります。思春期が開始するころの
低濃度のエストロゲンは、下垂体から分泌される成長ホルモンの分泌を刺激して
骨を伸長させます。以前は、エストロゲン(性成熟期にある女性にみられる程度の濃度)は
もっぱら成長ホルモンの分泌を抑え、身長の伸びを抑えるように作用すると理解されていました。
しかし低濃度のエストロゲンは、、むしろ成長ホルモンの分泌を増加させることが明らかになりました。
一方、高い濃度のエストロゲンは成長ホルモン分泌を抑制させます。思春期に身長が伸びるのは
乳房が発育する前であり、乳房の発育を起こさない程度の低い濃度のエストロゲンが
成長ホルモン分泌を刺激するのです。
2.骨が伸びるメカニズムとは
骨が十分に発育を遂げるころには、卵巣からのエストロゲン分泌は成人に近いレベルに
達しています。骨が伸びるメカニズムは、骨の端にある骨端線という軟骨でできた組織が
骨に変化していくことによります。女子では成熟女性におけるエストロゲン値に近づく
15歳から16歳くらいで骨端線がなくなり骨の伸長が止まります。
一方、男子の骨の成長にも女児と同様にエストロゲンが重要な役目を果たしています。
男子のほうがエストロゲンの上昇が遅れるため、骨は17歳から18歳ころまで
成長します。なお、男子の場合精巣由来のエストロゲンよりも骨で作られるエストロゲンの
ほうが主として成長を止める役割を果たしているという説もあります。
☑エストロゲンを作れない男女
エストロゲンを作ることができない男女は、いずれも骨端線がなかなか閉鎖しないため高身長になります。
逆にエストロゲンが過剰となる男子では早く背が伸び始め、12歳ころまでに伸びが止まり結果として
低身長となります。
3.エストロゲンは骨のカルシウムを増やす
人にとって、骨は身体を支え脳や内臓などの重要臓器を保護し、または運動や
移動のために必要です。これらは物理的な機能です。さらに骨の内部では骨髄が
造血工場にあたる働きをしながら生命維持に欠かせないカルシウムの貯蔵と、
必要に応じて全身にカルシウムを供給する機能を合わせもっています。
骨には全身に存在するカルシウムの約99%が蓄えられています。
☑妊娠・授乳中のエストロゲンの至妙な業
妊娠中は、非妊娠の50%程度のカルシウムの必要量が増します。
これは胎児の骨格の発育などに利用されるからです。また、妊娠中は腸からの
カルシウム吸収を高める作用のあるビタミンDも非妊時の約3倍となります。その結果、
母体の腸からのカルシウムの吸収率は増加しています。
なお、この時期にはこのビタミンDも胎盤で作られます。
分娩後に授乳を行うと、カルシウムの必要量はさらに増し非妊時の2倍近くになります。
授乳期にはエストロゲンは低値となることで、骨の骨の吸収が促進され血中にカルシウムが
移行しやすくなります。血中のカルシウムは母乳へ移行し、児の成長に役立ちます。
なお母親は授乳により骨量は減少しますが、授乳を中止すると多くの場合骨量は速やかに
回復します。ちなみに1年近くにわたる授乳を繰り返した女性は閉経後に骨粗鬆症による
骨折を起こすリスクが高まることがあります。
骨が新たな生命を育むためのカルシウムの貯蔵部位であることを考えると改めて、
エストロゲンの離れ業に感嘆します。妊娠、授乳に特有な母体血中のエストロゲン分泌の
変化が胎児、新生児のカルシウムのニーズに見事に対応しています。
妊娠、授乳中のエストロゲンは、子宮、胎児、乳腺などへの直接的な作用のみならず、
骨を標的とした見事なカルシウムの出納の調節機能まで担当しつつ、胎児や新生児の発育に
寄与しているといえます。


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