過活動膀胱(OAB)は
尿が十分に溜まっていないにもかかわらず
膀胱が過剰に収縮してしまうことで
強い尿意や頻尿、切迫性尿失禁を引き起こす疾患です。
西洋医学では
「副交感神経の過活動」や「中枢の抑制低下」といった神経生理学的な視点から
主に症状の抑制を目的とした治療が行われます。
中医学では
「腎気不固」「肝気鬱結」「膀胱湿熱」など、臓腑・気血の失調を根本原因と捉え
体質改善を通じて再発を防ぐアプローチが取られます。
過活動膀胱の病態・治療戦略・具体的な処方を
西洋医学と中医学の両面から比較し
統合的な理解と実践的な治療のヒントを提示します。
過活動膀胱(OAB)を「西洋医学」と「中医学」で比較しながら
全体像・狙い・治療戦略を分かりやすく整理します。
1.過活動膀胱 OABの病態を両医学で比較
| 視点 | 西洋医学 | 中医学 |
| 異常部位 | 膀胱排尿筋の過収縮 (副交感神経過活動) | 肝・腎・脾の失調 気・血・津液・腎精のバランス失調 |
| 原因 | 神経反射の興奮性上昇、中枢抑制低下 | 腎虚、膀胱気化不利、肝気鬱結、湿熱 |
| 症状の主軸 | 末梢センサー過敏、中枢の抑制障害 | 気の固摂低下、気化不利、湿・冷の停滞 |
| 治療の狙い | 膀胱=「興奮を抑える」 | 身体の基盤=「整えて正常化する」 |
| 即効性 | 速い | 中等度(根本改善) |
2. 治療戦略の全体像(比較)
■ 西洋医学の戦略(機能を“抑える”)
- 過剰な排尿反射をブロックする
- 膀胱の平滑筋の緊張を弱める/容量を増やす
- 前頭前野・脳の抑制を補う生活指導
▼ 主に“症状を抑える”方向
■ 中医学の戦略(原因を“是正する”)
- 腎・膀胱の気化を整えて「ためる力」を回復
- 脾の運化を整え湿を除き、膀胱の負担を減らす
- 肝気の過剰興奮(=自律神経の不安定)を鎮める
- 冷え・湿・熱など、膀胱を刺激する病邪を除く
▼ 主に「再発しない体質」へ導く方向
3. 治療法の具体的な比較
【A】薬物(西洋薬)と漢方の比較
① 抗コリン薬(副交感神経遮断)
- 排尿筋の収縮を抑える
- 尿意切迫感が速く改善
- 口渇・便秘の副作用が多い
→ 中医学で対応する方剤
肝気鬱結型・副交感神経過活動型
- 逍遙散
- 加味逍遙散
- 柴胡疎肝湯
→ “肝気の興奮”=自律神経のアンバランスを整える
→ 排尿反射が過敏なタイプに合う
② β3作動薬(ミラベグロン)
- 膀胱を緩め、容量を増やす
- 副作用が少なく高齢者に人気
→ 中医学で対応する方剤
腎気虚・膀胱気化不利
- 補中益気湯:脾気を上げて膀胱の固摂力↑
- 六味地黄丸:腎陰虚による過敏を安定
- 八味地黄丸:腎陽虚で冷えると頻尿や尿意が悪化
- 牛車腎気丸:腎虚+尿量異常・冷え
→ 「ためる力」をつける方向
③ 膀胱ボトックス注入
- 過剰収縮を物理的に止める
- 強力だが数カ月で効果が切れる
→ 中医学的には?
外科的な手法は “実を抜く” 治療。
中医学では以下を併用し根っこを治す:
- 腎陽虚:八味地黄丸
- 肝気鬱結:逍遙散
- 湿熱:五淋散・竜胆瀉肝湯
- 陽虚+冷え:真武湯
【B】行動療法の比較
西洋医学
- 膀胱訓練
- 骨盤底筋訓練
- カフェイン制限
- 水分管理
- 便秘の改善
中医学
- 温める(腎陽を助ける)
- 下腹部と仙骨部の温灸
- 「肝・脾・腎」を整える生活
- 過労を避ける(脾気虚防止)
- 過度なストレスを避ける(肝気の不疏)
- 冷飲・生ものを避ける(脾陽が弱る→尿意過敏)
4. 病型別:西洋医学と漢方の対応
① 肝気鬱結型(ストレス → 自律神経過敏)
- 症状:突然の尿意・イライラ・張り
- 西洋医学:抗コリン薬が効きやすい
- 中医学:逍遙散、加味逍遙散、柴胡疎肝湯
→ 副交感神経の暴走を“鎮める”
② 腎気不固型(腎虚)
- 症状:高齢、夜間頻尿、冷え、尿勢弱い
- 西洋医学:β3作動薬(ミラベグロン)
- 中医学:八味地黄丸、六味地黄丸、牛車腎気丸、補中益気湯
→ “ためる力”を取り戻す
③ 膀胱湿熱型(尿意頻回+炎症傾向)
- 症状:尿意のヒリヒリ、不快感、熱感
- 西洋医学:抗生物質(感染時)、抗炎症
- 中医学:五淋散、竜胆瀉肝湯、清心蓮子飲
→ 末梢のセンサー過敏を抑える
(炎症=求心性興奮の元)
④ 腎陽虚型(下腹部の冷えで頻尿悪化)
- 症状:冷えると尿意増悪、尿量多い
- 西洋医学:明確な相当薬なし
- 中医学:真武湯、八味地黄丸+附子、腎陽を補う処方
→ 冷えによる脊髄反射亢進を抑える
(冷えは副交感神経を亢進させる)
5. 両医学の役割の違い(非常に重要)
■ 西洋医学
- 膀胱そのものの過剰反応を抑制する
- 即効性
- 再発はしやすい
- 根本原因(体質)は治さない
■ 中医学
- 膀胱をコントロールする“体の基礎”を整える
- 再発を防ぎやすい
- 効果はやや緩やか
- 個体差に合わせられる
6. 最良の治療像(統合的アプローチ)
- 開始直後:西洋薬で症状を落ち着かせる
- 抗コリン薬 or β3作動薬
- 同時に中医学で体質改善
- 病型ごとに処方
- 腎・肝・脾を整える
- 生活・行動療法で再発防止
- 温灸
- 冷え対策
- 便秘・ストレス・睡眠改善
→ 「症状の速効性」+「再発予防」 を同時に満たす。
まとめ
過活動膀胱の治療において
西洋医学は
「膀胱の過剰な反応を抑える」ことに優れ
即効性がありますが、再発しやすく
体質的な根本原因にはアプローチしづらい側面があります。
中医学は
腎・肝・脾のバランスを整え
膀胱を制御する身体の基盤を回復させることを重視し
やや緩やかではあるものの
再発予防や根本改善に強みを持ちます。
この両者を統合することで、
- 初期には西洋薬で症状を速やかに緩和し
- 同時に中医学的な処方で体質を整え
- 生活習慣の改善で再発を防ぐ
という三位一体の戦略が可能となります。
西洋医学の即効性と中医学の根本治療力を組み合わせることで
過活動膀胱に対する最良の治療像が描けるのです。


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