「子宮内膜は、ただの“受け皿”ではありません。」
妊娠が成立するかどうか——その鍵を握るのが
排卵後の「子宮内膜の分泌期」です。
この時期、内膜はまるで“おもてなしの名人”のように
受精卵を迎えるための準備を整えます。
西洋医学ではホルモンと細胞の変化を
中医学では「陰精が満ち、気血が和す」と表現します。
今回は、この“受け入れの舞台”がどのように整えられていくのかを
西洋医学と中医学の両面から見ていきましょう。
「子宮内膜の分泌期」は
妊娠準備が整う非常に重要な時期であり
特に子宮内膜の
子宮内膜腺と間質細胞がホルモン刺激によって変化し
受精卵を受け入れる環境を作る段階です。
中医学的には「胞宮に陰精が満ち、気血が和して受胎を待つ」時期に相当します。
【1】子宮内膜分泌期とは
☑時期
- 排卵後:排卵の翌日から月経開始までの約14日間
- この時期、卵巣の黄体から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)が主導的に働きます。
【2】子宮内膜の形態的変化
排卵期まではエストロゲン(卵胞ホルモン)により
子宮内膜が増殖し、厚くなります。
排卵後はプロゲステロンの作用により
内膜は次のように変化します。
| 段階 | 時期(排卵後) | 組織変化 | 主な特徴 |
| 早期分泌期 | 2〜4日後 | 腺が巻き始め、 腺上皮内に空胞(グリコーゲン)出現 | 排卵直後の反応 |
| 中期分泌期 | 6〜8日後 受精卵着床期 | 腺が強く蛇行し、分泌物が腺腔に充満 | 着床に最適な環境 |
| 後期分泌期 | 10〜14日後 | 腺の活動が減退し、 間質が浮腫状・白血球浸潤 | 黄体退縮へ移行 |
【3】子宮内膜が分泌する主要物質
黄体ホルモン(プロゲステロン)の刺激下で
子宮内膜腺上皮・間質細胞・免疫細胞が多様な物質を分泌します。
それらは「受精卵の着床・免疫寛容・栄養供給」を目的としています。
| 分泌物質 | 主な作用 | 備考 |
| グリコーゲン | 胚への栄養供給 | 内膜腺上皮内で合成され 腺腔に分泌される |
| ムチン (粘液糖タンパク) | 胚と内膜の接着を調整 | 過剰だと着床阻害 減少で受容性上昇 |
| サイトカイン | IL-6, LIF, IL-11, TNFα | 胚と免疫細胞の相互作用を調整 (免疫寛容) |
| 成長因子 | VEGF, IGF, EGF, TGFβ | 内膜血流・胚発育 内膜再生を促進 |
| プロスタグランジン(PG) | 血流調整・黄体支持 免疫調整 | PGE₂・PGF₂αなどが局所調節 |
| 子宮乳 | グリコーゲン・糖タンパク リポタンパク混合液 | 着床前胚を養う液体 |
| 免疫関連分子 | HLA-G, IL-10 Treg誘導因子 | 胚(半異物)に対する 母体免疫寛容を形成 |
このように
子宮内膜は「栄養供給・免疫調整・粘液バリア調整」を同時に行っています。
【4】生理的意義
- 子宮腺分泌液(グリコーゲンリッチな粘液)は、受精卵が着床する前にエネルギー源として利用されます。
- 内膜の浮腫は、胚が物理的に埋まりやすくするため。
- サイトカイン・成長因子は、着床を誘導する「分子シグナル」を発する。
- 血管新生と免疫寛容が並行して進みます。
【5】中医学的解釈🩺
中医学ではこの「分泌期」は、
- 排卵後の「腎精・天癸・衝任脈」が充実し、
- 「脾気の運化」「肝の疏泄」が調い、
- 「心腎相交」して胞宮に血と陰精が満ちる時期
と考えられます。
したがって:
| 西洋医学 | 中医学 |
| プロゲステロン分泌 | 腎精化気(陰が陽に化して精が気に転ず) |
| 子宮内膜腺の分泌 | 脾主運化、津液化血(潤いが胞宮に届く) |
| 内膜の浮腫・柔軟性 | 陰血充足・衝任調順 |
| 着床可能期(implantation window) | 胞宮が陰精で満ち「受納」の気が働く |
中医学的にはこの状態を「陰満陽和」「精血盈盈」と表現します。
このバランスが崩れると——
- 陰血不足 → 子宮内膜薄く、受容性低下
- 瘀血内阻 → 子宮腺分泌不良、着床障害
- 気滞 → プロスタグランジン過剰、子宮収縮過多(着床妨げ)
という臨床像になります。
| 観点 | 内容 |
| 主なホルモン | プロゲステロン(黄体ホルモン) |
| 内膜の変化 | 腺の蛇行・浮腫・分泌活発化 |
| 分泌物 | グリコーゲン、ムチン、サイトカイン、成長因子、PG、免疫調整因子 |
| 主な目的 | 胚の着床・栄養供給・免疫寛容 |
| 中医学対応 | 陰精充足・衝任調順・気血和 |
まとめ
子宮内膜の分泌期は、単なる生理的変化ではなく
生命を迎え入れるための精緻な“準備の儀式”です。
西洋医学の視点ではホルモンと細胞の連携が
中医学の視点では陰陽・気血の調和が、その背景にあります。
この両者を重ねて見ることで
私たちは「からだの知恵」と「いのちの営み」の深さに気づくことができます。
どうかこの知識が、
患者さんへの説明やご自身の学びに、温かく力強い支えとなりますように。
次回、子宮内膜分泌期に必要な漢方薬の記事をアップします。


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