「痛いの痛いの飛んでいけ」――
この言葉と手当てには、神経の働きと気血の流れが深く関わっています。
西洋医学ではAβ線維やC線維という神経が痛みの伝達に関与し、
中医学では**“通じる”か“滞る”かが痛みの有無を決めると考えます。
ここからは、神経線維の生理作用と中医学的な読み替え、
そしてそれに対応する漢方処方と方意**について整理してまいります。
「ゲートコントロール理論(Gate Control Theory)」を中医学的に読み替えると、
Aβ線維の活性=“通じる”治療(通則不痛)、
C線維の抑制=“滞りを除く”治療(不通則痛)
として捉えることができます。
以下にそれぞれの神経線維の生理作用と、中医学的対応・代表方剤・方意を整理します
Aβ線維活性による痛みの改善
☑西洋医学的
- 触圧刺激・温熱・マッサージなどでAβ線維が興奮すると、
脊髄後角の痛覚伝達(C線維・Aδ線維)を抑制し、痛みが軽減される。 - つまり「通じる」状態を作る=経絡の疏通。
☑中医学的対応
→ 「疏通経絡」「理気活血」「通則不痛」
すなわち、経絡・気血の通りを良くする処方。
☑代表的処方と方意
| 方剤 | 方意(働き) | 適応(Aβ線維活性を促す状況) |
| 疎経活血湯 | 風・寒・湿による経絡阻滞を除き 気血を巡らす | 慢性筋肉痛、関節痛 しびれ、瘀血性疼痛 |
| 独活寄生湯 | 補肝腎・強筋骨・祛風湿・止痛 | 慢性腰痛・坐骨神経痛 |
| 葛根湯 | 解肌・発汗により経脈を通す | 初期の肩こり・筋緊張性頭痛 |
| 川芎茶調散 | 疏風止痛・調気活血 | 頭痛・筋緊張性疼痛 血流不良型頭痛 |
| 桂枝加朮附湯 | 温経通絡・祛風除湿 | 冷え性・寒湿による関節痛 |
経絡を「疏通」し、陽気と血流を巡らせることで「通則不痛」を達成。
→ Aβ線維の働きを助ける=通経活血・理気止痛。
C線維活性(痛み・痒み)抑制による改善
☑西洋医学的
- C線維は遅伝導性の持続痛・慢性痛・痒みを伝える。
- その過剰興奮を抑えることが、痛み・痒みの鎮静に重要。
☑中医学的対応
→ 「気血の阻滞」「瘀血・気滞・湿熱」などの実証的停滞を除く。
すなわち、“滞りを取り去り、炎症・瘀血・熱毒を除く”処方。
☑代表的処方と方意
| 方剤 | 方意(働き) | 適応(C線維過剰興奮) |
| 桃核承気湯 | 破血下瘀・行血止痛 | 瘀血による刺痛・月経痛・頭痛・慢性疼痛 |
| 血府逐瘀湯 | 活血化瘀・行気止痛 | 慢性炎症性疼痛・頭痛・胸背部痛・瘀血性不眠 |
| 桂枝茯苓丸 | 活血化瘀・去瘀生新 | 血行障害・月経異常・瘀血体質の疼痛 |
| 加味逍遙散 | 疏肝理気・清熱除煩 | ストレス性気滞・炎症・C線維性痒み(アトピーなど) |
| 竜胆瀉肝湯 | 清熱瀉火・利湿 | 湿熱による皮膚掻痒・外陰部の熱感・炎症 |
| 温清飲 | 清熱涼血・調和血分 | 瘀熱・血熱による皮膚炎・痒み・慢性炎症 |
「滞れば痛む・熱すれば痒む」——
よって瘀血・気滞・湿熱を除き、C線維の興奮を鎮める。
→ 行気活血・清熱解毒・涼血止痒。
中医学×神経線維対応まとめ
| 神経 | 生理的役割 | 中医学的対応 | 代表方剤例 |
| A線維 | 触圧刺激による抑制性ゲート (痛みを通さない) | 疏通経絡 理気活血 | 疎経活血湯 独活寄生湯・葛根湯 |
| C線維 | 持続痛・痒み・炎症感覚を伝える | 行気化瘀・清熱涼血 活血解毒 | 桃核承気湯 血府逐瘀湯・温清飲 |
臨床的応用(神経と方意の統合)
| 症状 | 主因 | 推奨方向 | 処方例 |
| 急性筋緊張・肩こり | 経絡の気滞 | 疏通経絡(Aβ活性) | 葛根湯・疎経活血湯 |
| 慢性腰痛・冷え痛 | 腎虚・寒湿 | 温経通絡(Aβ活性) | 独活寄生湯・桂枝加朮附湯 |
| 月経痛・瘀血痛 | 血行障害 (瘀血) | 行気活血(C線維抑制) | 桂枝茯苓丸・桃核承気湯 |
| アトピー・痒み | 血熱・瘀血・湿熱 | 涼血・清熱・化瘀 (C線維抑制) | 温清飲・加味逍遙散 竜胆瀉肝湯 |
このように、Aβ線維の活性化による痛みの抑制は、
中医学で言えば「疏通経絡」「理気活血」に通じ、
一方、C線維の過剰興奮による慢性痛や痒みは、
「瘀血・気滞・湿熱」を除くことで鎮めることができます。
神経と気血の対応を理解することで、
痛みの性質に応じた漢方処方の選択がより的確に行えるのです。


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