中医学では、
妊娠とは“天の時・地の利・人の和”が整って初めて実るものとされます。
その中でも女性の身体における“地の利”
——すなわち衝任脈(胞宮:子宮)の充実は、陰虚
生命の芽生えに欠かせない土壌です。
現代に多く見られる『血虚』『陰虚』『瘀血』といった病理は
この胞宮:子宮を養い、潤し、通す力を損なわせ
不妊の大きな要因となっているのです。
種が芽吹くには豊かな土と潤い、そして風通しのよい環境が必要です。
女性の身体における“胞宮:子宮”もまた、命を育む大地。
そこに栄養(血虚)、潤い(陰虚)、流れ(瘀血)が欠ければ
どんなに種があっても芽は出ません。
今回は、この三つの病理がどのようにして衝任脈を損ない
不妊へとつながるのかを見ていきましょう。
🩸① 血虚 — 「血の源が不足し、胞宮(子宮)を養えない」
🔹主病機転
- 脾胃の虚弱による血生化不足
- 失血・慢性疾患による血耗
- 肝血の不足により衝脈・任脈失養
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→ 結果:月経量少・周期遅延・顔色蒼白・舌淡・脈細弱
🔹代表方剤:四物湯(当帰・芍薬・地黄・川芎)
▪ 方意
「養血調経の基本方」
- 当帰 :補血・活血し、新旧の血を調える(気血双補の主薬)
- 芍薬 :養血・柔肝・緩急止痛
- 熟地黄:補血滋陰・精血を生む
- 川芎 :活血行気し、血行を促進
→ 血を「補い」「めぐらせる」ことで、衝脈・任脈を充たし月経を整える。
▪ 応用
- 月経量少・色淡・無月経
- 顔色蒼白・めまい・不眠・爪が白い
- 不妊で「胞宮の血源不足」型
🌙② 陰虚 — 「任脈の潤いが失われ、精血不足・胎児を養えない」
🔹主病機転
- 腎陰不足 → 精血同源の虚
- 衝任の陰液不足により胞宮(子宮)の潤い減少
- 陰虚火旺となり、内熱が血を損傷
→ 結果:月経量少・周期短縮・潮熱・口乾・舌紅少苔
🔹代表方剤:六味地黄丸(熟地黄・山茱萸・山薬・茯苓・沢瀉・牡丹皮)
▪ 方意
「腎陰を滋し、陰陽の基を補う」
- 熟地黄:補腎滋陰・益精血(君薬)
- 山茱萸:補肝腎・斂陰止汗(臣薬)
- 山薬 :健脾補腎・益精(臣薬)
- 茯苓・沢瀉・牡丹皮:陰を補いつつ余熱・湿を去る(佐薬)
→ 腎陰を養い、衝任の陰液を充実させ、胞宮(子宮)の潤いを回復する。
▪ 応用
- 月経量少・色紅・基礎体温高温期が長い
- 潮熱・寝汗・口乾
- 卵子の質低下・子宮内膜の菲薄化など
※さらに陰虚熱が著しい場合は「知柏地黄丸」、
陰虚と気陰両虚なら「杞菊地黄丸」などを用います。
💧③ 瘀血 — 「衝任脈の通りが悪く、胞宮(子宮)に新しい血が届かない」
🔹主病機転
- 血行停滞により胞宮(子宮)に瘀血が留滞
- 気滞・寒凝・熱結によっても悪化
- 瘀阻胞宮 → 月経痛・経血に塊・子宮筋腫・内膜症
→ 結果:月経痛・経血の塊・紫暗色・舌紫・脈渋
🔹代表方剤:桂枝茯苓丸(桂枝・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬)
▪ 方意
「活血化瘀・調経止痛の代表方」
- 桂枝 :温経通陽・行血
- 桃仁 :破血行瘀(君薬)
- 牡丹皮:清熱涼血・活血(臣薬)
- 芍薬 :養血止痛・緩急
- 茯苓 :健脾利水・安胎
→ 温と涼の薬を併用し、「瘀血を去り新血を生む」方意。
瘀血去れば新血生じ、衝任脈が再び通暢する。
▪ 応用
- 月経痛・経血に塊・子宮筋腫・内膜症
- 舌紫暗・経血黒・腹部抵抗・不妊
- 冷えや血行不良を伴うタイプ
☆それぞれのまとめ
| 病理 | 主な障害 | 代表方剤 | 方意 | 主な症状 |
| 血虚 | 衝脈の源不足 | 四物湯 | 養血・活血・調経 | 月経量少・顔色淡白 |
| 陰虚 | 任脈の潤い不足 | 六味地黄丸 | 滋陰補腎・補精血 | 潮熱・乾燥・内膜薄 |
| 瘀血 | 衝任の通り阻滞 | 桂枝茯苓丸 | 活血化瘀・調経止痛 | 月経痛・塊・筋腫 |
このように、
『血虚』『陰虚』『瘀血』はいずれも
衝任脈の機能を損ない、胞宮の栄養・潤い・通暢を妨げることで
不妊の根本的な要因となります。
だからこそ中医学では、単に排卵やホルモンだけを見るのではなく
身体全体の“血・陰・気・血行”の調和を整えることで、
命を迎える準備を整えていくのです。命は、流れの中に宿ります。
血が満ち、陰が潤い、流れが滞らなければ、
衝任脈は静かに、確実に命を迎える場を整えてくれます。
不妊の背景にある“虚”と“瘀”を見つめることは、
単なる治療ではなく、身体と心の大地を耕し直すことなのです。
妊娠とは“天の時・地の利・人の和”という中医学の哲理
西洋医学の視点と融合させてお伝えいたします。
中医学の三要素 × 西洋医学的対応
| 中医学の概念 | 意味 | 西洋医学的な対応 |
| 天の時 | 月経周期や排卵のタイミング | ホルモン周期(視床下部-下垂体-卵巣系) 排卵日、黄体期などのタイミング制御 |
| 地の利 | 身体の環境、子宮の状態。 栄養・潤いが整っている事 | 子宮内膜の厚さ・血流・卵巣機能 骨盤内の血流や炎症の有無 |
| 人の和 | 心身の調和、人間関係 夫婦の協力、精神的安定 | ストレス、性機能、夫婦のタイミング 心理的要因(HPA軸の影響) |
中医学では
妊娠は“天の時・地の利・人の和”が揃って初めて成立すると考えます。
これは単なる詩的表現ではなく
現代医学の知見とも深く響き合うものです。
- 「天の時」はホルモン周期と排卵のタイミング。
- 「地の利」は子宮内膜の受容性や卵巣の血流。
- 「人の和」はストレスや夫婦関係、性機能の調和。
妊娠は、単なる受精と着床の成功ではなく
身体と心、そして環境の調和が生み出す“生命の合奏”です。
中医学の『天・地・人』の視点は
現代医学の断片的な知識をつなぎ合わせ、より全体的な理解とケアへと導いてくれます。


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