血の流れが滞ると、身体の隅々にまで栄養や温もりが届かなくなります。中医学ではこの状態を『瘀血』と呼び、単なる血行不良ではなく、生命の巡りの停滞と捉えます。
例えば「川の流れがよどむと、岸辺に泥が溜まり、水は濁ります。人の体も同じです。血の流れが滞ると、痛みや冷え、くすみなど、さまざまな不調が現れます。
中医学では、この『瘀血』をどう捉え、どう整えるのでしょうか?
血液の滞り瘀血改善に活血剤として四物湯を配合する理由は、血の材料(血虚)を補いながら、血の運行(瘀血)を改善するという中医学の核心に関わる考え方です。
- 四物湯の基本方意
- 各薬の役割と「活血」へのつながり
- 四物湯が活血剤に組み込まれる理論的背景
- 具体的な応用例 で説明します。
1. 四物湯の基本方意
組成: 当帰・川芎・芍薬・熟地黄
方意: 養血・調血・和血
四物湯は「血虚+瘀血」を同時に整える方剤で、
「血を補い、血を巡らせる」という二面性を持っています。
2. 各薬の役割と「活血」へのつながり
| 生薬 | 主な作用 | 活血との関係 |
| 当帰 | 養血・活血・潤腸 | 血を補いながら血行を促進。瘀血を柔らかく解く。 |
| 川芎 | 活血・行気・止痛 | 瘀滞を散らし、当帰の補血作用で生まれた新血を巡らせる。 |
| 芍薬 | 養血・緩急・止痛 | 血を補い、筋肉の緊張を和らげて血行をスムーズに。 |
| 熟地黄 | 補血・滋陰・補精 | 血の根源を養うことで、新しい血の生成を支える。 |
当帰・芍薬・熟地で「血の質と量を整え」、
川芎で「血の巡りを開く」。
つまり、四物湯は“血虚と瘀血の同時治療”の基礎方です。
3. 四物湯が活血剤に組み込まれる理論的背景
活血化瘀薬は、単に「血を動かす」だけでは効果が持続しません。
血虚がある状態で強く血を動かすと、
「血液を損じて、血流は一時的に動くがまた滞る」という悪循環になります。
そこで、四物湯のような補血+活血の基礎方を加えることで、
「血を生み、血を養い、その流れを取り戻す」という恒久的な改善が可能になります。
4. 具体的な応用例
| 活血方剤 | 四物湯を含む理由 | 主な目的 |
| 桃紅四物湯 (四物湯+桃仁・紅花) | 四物湯で養血、桃仁紅花で活血 | 月経不順・血瘀月経痛などに。 血虚を伴う瘀血。 |
| 温経湯 (四物湯+呉茱萸・桂枝など) | 四物湯で血を養い 温薬で寒による瘀血を除く | 冷えによる月経痛 不妊など。 |
| 芎帰調血飲 | 四物湯を基礎に 気滞・瘀血を兼ねる時 | 気血両虚・血瘀 月経不調。 |
いずれの処方も「血を補いながら巡らせる」ことを目的としています。
5. まとめ(要点)
| 観点 | 内容 |
| 目的 | 血虚を改善し、血行を再建して瘀血を根本から除く |
| 理論 | 「血虚があれば、瘀血は生じやすい」ため、補血と活血を併用 |
| 方意 | 養血為本・活血為用(補うことを本とし、巡らせることを用とする) |
| 臨床意義 | 単なる活血ではなく、血の生成と循環を同時に回復すること |
つまり、四物湯は単なる活血剤ではなく、血の『材料』と『流れ』の両方に働きかける処方です。血虚と瘀血は表裏一体であり、どちらか一方だけを整えても、根本的な改善には至りません。中医学の知恵は、全体を見て、調和を図ることにあります。
血を補い、血を巡らせる——それは、生命の川を澄ませ、再び流れを取り戻すこと。
四物湯は、その川の源と流れを同時に整える、まさに中医学の核心を体現した処方なのです。


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