妊娠は、単なる受精と着床の結果ではなく、母体の免疫系が胎児を受け入れ、育てる準備を整えるプロセスです。
その鍵を握るのが「サイトカイン」と呼ばれる免疫細胞のメッセンジャー分子たちです。
この説明の目的は、
妊娠に必要な免疫環境を理解して頂く事
不妊の原因が「炎症」や「免疫の偏り」にある場合がある
治療(漢方・免疫調整)にサイトカインの知識が役立つ
不妊治療中の方が「自分の体の中で何が起きているか」をイメージして頂く事
特に
IL-1〜IL-22、IFNγ、TNFαなどは炎症性サイトカイン
IL-10・TGFβ・PIBF・LIFなどは免疫寛容や着床促進に関与
VEGF・PDGF・PIMP群は血管新生や子宮内膜環境に関与します
目次
主要サイトカイン(不妊との関係)
| サイトカイン | 説明 | 妊娠・不妊への関係 | 中医学 |
| IL-1 | 体に炎症があるよと知らせる信号。 着床の初期に少し必要。 | 適度な量で着床を助けるが 多すぎると炎症で着床を妨げる。 | 「熱(血熱)」「気滞熱」 |
| IL-2 | 免疫を強めるスイッチ。 攻撃モードを作る。 | 多すぎると胎児を“異物”とみなし 流産リスク。 | 「陽実」 「気盛」 |
| IL-4 | 免疫をやさしくする信号。体を“受け入れモード”に。 | 妊娠を助ける。 Th2型免疫(寛容)を高める。 | 「陰」 「安胎」 |
| IL-6 | 炎症と修復 両方促す信号。 | 適度なら着床促進、過剰で慢性炎症・子宮内膜症などの原因。 | 「血熱」 「湿熱」 |
| IL-8 | 血流を集め、子宮内膜を 受け入れ体制にする。 | 内膜の血流改善や着床促進 過剰では炎症を悪化。 | 「通絡」 「活血」 |
| IL-10 | 炎症を鎮める信号。 免疫を落ち着かせる。 | 胎児を守る「免疫のブレーキ」 流産予防に重要。 | 「養陰」 「安胎」 |
| IL-12 | Th1免疫を促す(攻撃型) | 過剰だと流産・着床障害。 | |
| IL-15 | 子宮NK細胞の バランスを整える。 | NK細胞を“優しいタイプ”に育て 着床を助ける。 | 「調肝」 「養血」 |
| IL-17 | 炎症を強くする。 | 多すぎると子宮内の炎症 慢性子宮内膜炎・着床障害につながる。 | 「血熱」 「瘀血」 |
| IL-18 | IFNγを誘導し炎症促進 | 過剰で着床障害 | |
| IL-22 | 組織の修復を促す。 | 子宮内膜を整えて 着床環境を良くする。 | 「補陰」 「補血」 |
| IL-33 | 子宮内膜の免疫寛容促進 | 着床初期に必要 |
| サイトカイン | 説明 | 妊娠・不妊への関係 | 中医学 |
| IFN-γ | 強い免疫の司令塔。 ウイルスや異物を排除。 | 過剰だと胎児への攻撃 (流産・着床障害)。 | 「肝鬱化火」 「熱毒」 |
| TNF-α | 炎症の中心。 IL-1と共に“攻撃モード”を作る。 | 適度で着床促進 過剰で内膜炎や子宮筋腫悪化。 | 「血熱」「瘀血」 |
| TGF-β | 炎症を抑え、 免疫を穏やかにする。 | 免疫寛容を維持し、胎児を守る。 | 「養陰」「安胎」 |
| VEGF | 新しい血管を作る信号。 | 子宮や卵巣の血流を良くし 卵や内膜を育てる。 | 「活血」「補血」 |
| PDGF | 組織修復・血管修復の信号。 | 着床面の修復・血管新生に関与。 | 「補血」「通絡」 |
| PIBF | 黄体ホルモンによって分泌 妊娠を維持する | NK細胞を落ち着かせ 流産を防ぐ。 | 「安胎」「補腎」 |
| LIF | 着床を始めるスイッチ。 | LIFがないと 受精卵が内膜に着床できない | 「温煦」 「通絡」 「補気血」 |
| PIMP1 PIMP3 | 黄体ホルモンの働きを助け 子宮を妊娠状態に準備する。 | 内膜成熟や免疫寛容に関与。 | 「補腎」 「養血」 「安胎」 |
| GM-CSF | 胎盤形成を助ける | 胎盤発達・着床をサポート | |
| CXCL12 | 血管誘導と着床サポート | 胚と内膜の結合を強化。 |
- 炎症を起こすサイトカイン → 「攻撃モード(IL-1・IL-6・TNFα・IFNγなど)」
- 抑えるサイトカイン → 「受け入れモード(IL-4・IL-10・TGFβ・PIBFなど)」
- 妊娠成立にはこの**“攻撃と受け入れのバランス”**が大切。
- 漢方ではこのバランスを「陰陽・虚実・気血の調和」で整えます。
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妊娠は、生命の誕生を支える奇跡の連係プレーです。
その舞台裏では、サイトカインたちが絶えず情報を交換し、
母体と胎児の調和を築いています。
これらの小さなメッセンジャーの働きを知ることで、不妊という課題の中に
小さなメッセンジャーの働きを知ることで不妊という課題の中に希望の糸口が
見えてきます。「免疫の言葉を聞くこと」は、妊娠への道を照らすやさしい光となるのです。


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